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【後半ネタバレ】映画「スリー・ビルボード」の見どころ&感想。笑って泣けるバイオレンス映画の傑作!

複雑なお話、好きですか? 二回も三回も観ないとわからない映画、好きですか? 僕は大好きです。

今日紹介するのはそんな人にオススメの映画。今年度のアカデミー賞最有力候補との呼び声高い「スリー・ビルボード」です。

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(出典: 映画『スリー・ビルボード』2月1日(木)全国ロードショー

あらすじ

「レイプされて、殺された」「逮捕はまだ?」「どうして? ウィロビー署長」

アメリカ・ミズーリ州の田舎町、エビングに、突如として3枚の奇妙な広告看板が現れた。広告の主は、この町に住むひとりの主婦、ミルドレッド・ヘイズ。

ミルドレッドの娘・アンジェラは、7ヶ月前に何者かによって惨殺されていた。いっこうに進展しない捜査に抗議するため、地元の広告会社と契約して看板を設置したのだった。地元からの信頼を集める警察署長、ウィロビーを名指しで批判する内容に、ミルドレッドは警察だけでなく周りの住民たちからも敵意を向けられる。

さらには息子のロビーからも「看板を見るたびに姉の死を思い出して辛い」と抗議され、次第に孤立無援となっていく彼女。

そんな中、事件は衝撃の展開をむかえる……。

変幻自在、全部乗せ。多面的な表情を持つ、分類不能ドラマ!

「スリー・ビルボード」は、一言で印象を表すのがすんごく難しい映画です。僕は劇場で2回観ましたけど、1度目は暴力に次ぐ暴力に打ちのめされ、2度目はゲスな登場人物たちが見せる優しさに心が温まりました。何言ってるかよくわかんないでしょうけど。

というのもこの映画、全体的には暴言が飛び交い人がすぐボコボコにされるバイオレンス映画でありながら、同時にシニカルな笑いがふんだんに散りばめられたコメディ映画でもあります。かと思えば、愛や怒りについて深く考えさせられ、泣けるシーンの多いハートウォーミングドラマでもあるんです。……ってなんでもありかよ!

どうしてかっていうと、登場人物たちがみーんな複雑な背景を抱えてるからなんですね。

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(出典: 『スリー・ビルボード』日本版 新予告編 - YouTube)

たとえば主人公のミルドレッド。娘のために戦うお母さんといえば聞こえはいいですが、実際には f**k とか b***h とか平気で口にして、邪魔する奴には暴力も辞さない、クレイジーな人物。その行動があまりに突拍子もないから、見てる分には笑えますけど、心の底から応援できる人って感じじゃないんです。でも彼女のクレイジーな行動はすべて娘への愛がそうさせてるんであって、時折それが噴出する場面では涙がこぼれる……。


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(出典: 『スリー・ビルボード』日本版 新予告編 - YouTube)
また、ミルドレッドの怒りを買う警察署長・ウィロビーは、最初の登場シーンではめちゃ言葉づかい荒くて「こいつぁ犯人捕まらないわけだ」って印象なのに、よくよく話を聞いてみると、ちゃんと捜査はしてるってことがわかってきます。犯人が見つからないのには理由があって、しかもウィロビー個人もとんでもない事情を抱えている。

主要登場人物はみんなこんな感じで、第一印象はこうだけど、実際はこうって人ばっかり。油断してると裏切られますよ。

そして映画そのものも、第一印象は悲しいお母さんの復讐劇と見せかけといて、次から次へと違う顔が見えてくる。作品全体はかなり静謐なムードに包まれているのに、片時も目が離せない。こういうのをホントのジェットコースタームービーと言うのではないでしょうか!?


さてさて、鑑賞前に読んでいいのはここまで。後半は映画の細かい内容に触れているので、鑑賞後にお読みくださいませ〜!

↓以下、映画のネタバレを含みます↓

誰がいい人で、誰が悪い人なのか?

「スリー・ビルボード」、最後の最後までホントに油断できない映画でしたね……。単純な善人も、単純な悪人もいない映画でした。

ミルドレッドは一見いい人っぽく登場します。窓際でひっくり返ってる虫をそっと助けてあげる場面も、いかにも「強面だけど優しい人」って感じ。

ところが次第に粗暴な女性であることが明らかになってくる。が、その粗暴な一面にしても、髪をまとめてジャンプスーツを着て、戦闘態勢に入ってるときだけかもしれない。冒頭では一瞬だけですが、髪を下ろして普段着を着てますからね。

そこからあのギターとドラムのBGMが聞こえてきて、「戦争じゃ〜!!」ってムードに突入していくわけで。ここで腹をくくったと言えるんじゃないでしょうか。

ウィロビー署長はいかにも善良で誰にでも好かれている人物ですが、あのタイミングで自殺するのはどうなんでしょう。どう考えても家族のトラウマになるし、ミルドレッドに自殺の嫌疑がかかるのも容易に想像できたはず。

看板設置の広告料をわざわざ払ってくれてるのもイタズラっぽく聞こえます。良くも悪くも少年みたいな人でした。

署長の部下で後半のキーパーソンになるディクソンは、頭が悪く差別主義者でどうしようもないダメ警官ながら、自分なりの正義を貫こうとしているだけにも見えてきます。署長を自殺に追いやったやつは許せない。その遠因であるアンジェラをレイプして殺害した犯人も許せない。

全身に火傷を負ったり、チンピラにぼこぼこにされたり、アンジェラ殺害事件解決のために一番体を張ってるのはディクソンなんですよ。

唯一、単純にいいやつがいたとすれば、広告会社のレッドでしょうか。病室で火傷で全身ぐるぐる巻になったディクソンと相対したとき、怒りを隠しきれないながらもひっしにそれをこらえ、オレンジジュースを差し出す……。

でもこれにしたって、ディクソンが無傷のまま病室にお見舞いに来たら、果たして彼は許したんでしょうか。ひょっとしたら、ディクソンが自分と同様傷だらけになっているから、多少の同情心が働いたのかもしれません。

ディクソンの憎しみと愛

ウィロビー署長がディクソンに残した遺書の中には「君が刑事に昇進するために必要なのは愛だ。憎しみは何も解決しない」と書かれていました。

この「愛」とは一体何のことなのか。ウィロビー署長が信心深い人物だったことを考えると、聖書に出てくる「隣人愛」のことかなと考えました。人種や民族、地位に関係なく、困っている人がいれば手を差し伸べる。確かにディクソンに全然足りてなかった態度ですね。

すると、アンジェラ殺害事件の捜査ファイルが燃えている。これが燃えては困る人がいる。とっさにそう感じたディクソンは、「love... love...」とつぶやきながら炎の中に突進、命がけでファイルを守り抜いたんです。

ディクソンとミルドレッドは本当にレイピストを殺しに行くのか

そもそもミルドレッド、「おかしな話ね……わたし、明日アイダホまで行くんだけど」と電話でこたえてましたけど、これホントですかね?

ミズーリ州とアイダホ州って2000kmも離れてて、車をぶっ通しで運転し続けても24時間かかるんですが。そんなところに用事あるのかよ。

「ナンバープレートを控えた。そいつがどこに住んでいるかわかる」というディクソンの電話から、とっさに彼が何をしようとしているか想像して、じゃあ自分も連れてってくれという意味で嘘をついたかもしれないなと。

レイピストを殺すかどうかを「運転しながら決めよう」とはぐらかせたのは、憎悪は憎悪を生むだけで何も解決しない、という劇中のメッセージに寄せた結果でしょうかね。



いや〜、感想をまとめていても次から次へと書きたいことが出てくる映画です。ニュージーランドでの英語&字幕なしの状況ではちゃんと理解しきれてない部分が絶対あるはずなので、日本語字幕版で鑑賞できるようになったらまた見ようと思います。2018年1月からいい作品に出会えました。