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「日本のいちばん長い日」の感想。岡本喜八監督が阿南惟幾のセリフに託したメッセージとは?

昭和20年8月14日から15日にかけての、太平洋戦争における日本の敗戦が決まった1日を追った映画「日本のいちばん長い日」を観ました。1967年、岡本喜八監督がメガホンを取った作品です。

日本のいちばん長い日 Blu-ray

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あらすじ

昭和20年7月26日、連合軍から日本政府に対して降伏を促す「ポツダム宣言」が発せられた。当時、ソビエトに対して和平交渉の仲介を依頼していた日本は、その回答があるまでは返事ができないとして、宣言の受諾を保留。ところが、それが「黙殺」さらには「拒絶」として海外に伝わってしまい、結果的に広島、長崎への原子爆弾投下を許してしまう。さらに翌10日にはソビエトが日ソ不可侵条約を破棄して旧満州へと侵略を開始し、和平交渉は絶望的となった。


その後、昭和天皇を招いて行われた御前会議において、戦争を終結させるべしとの「御聖断」がなされたことを契機に、政府はポツダム宣言受諾のための準備に取りかかる。しかし、陸軍将校の中には本土決戦を行わないまま無条件降伏することを快く思わない者たちがいた。政府、陸軍、宮内省、関係者の様々な想いが交錯する中、"日本のいちばん長い日" が始まった……。

観てるこちらまで疲れるほどの会議、会議、会議!

「日本のいちばん長い日」というタイトルが示すとおり、この映画で扱われている24時間はあまりにいろんなことが起こりすぎ。

映画の前半はひたすら会議、そして事務仕事です。ポツダム宣言を受託することが決まったのはいいものの、次は終戦の詔書(天皇が国民に向けて発表する文書)を作らなくてはいけません。その文面も、内閣書記官長が作成したものを閣議で審議しなければならず、しかもこの閣議が各省庁の思惑が食い違ってスムーズに進まない!

やっと文面が決まったと思ったら、それを清書して、天皇の御名御璽をいただいてから、内閣閣僚の署名をもらってようやく公布の手続きが終了。次は詔書を昭和天皇直々に読んでいただいて録音し、有名な「玉音放送」のレコードができあがったところで、やっと映画は折り返しです。昼から始まった会議が終わり、連合国に宣言受諾の電報を打ったのが夜の11時。ここまでで1時間半かかってますからね!?

とにかく登場人物の疲労の描写が生々しい。8月のど真ん中ということで、みんな額に汗を書きながら会議してる。閣議の決定を待っている外務省や宮内省関係者の焦りもひしひしと伝わってきます。すべての手続が終わったあと、呆然として椅子に座り込む閣僚の表情にも疲れしかありません。これ、映画館で観た人は同じようにどっと疲れたんじゃないでしょうか……。

が、疲れてる暇なんかないのです。映画の後半戦は、終戦前夜に陸軍将校が企てたクーデター未遂・宮城事件へとなだれこんでいきます。

陸軍将校たちの悲しいほどの真っ直ぐさ

日本の無条件降伏に納得できない陸軍将校たちは、東部軍(東日本を防衛する部隊)と近衛師団(天皇を警護する部隊)を率いて皇居を隔離し、東京一帯に戒厳令をしくというクーデターを計画していました。陸軍省軍務課の畑中健二少佐(黒沢年男)を中心とする決起部隊は、玉音放送を阻止するため、森赳近衛師団長(島田正吾)を殺害。偽の命令を出して近衛師団を動員し、宮内省および皇居を占拠します。これが「宮城事件」です。

後半の実質的な主人公となるのが、黒沢年男演じる畑中少佐なのですが、彼の悲しいほどの真っ直ぐさが痛々しく胸に突き刺さってくるんです。今までの戦争でずっと勝ち続けてきた日本が負けるのが受け入れられない。最後まで戦わずして無条件降伏に応じる政府が信じられない。ほんとうに国を想っているのは自分たちの方で、政府首脳はみな君側の奸である……。

信じるものに真っ直ぐなあまり、どんどん狂気に落ちていく。終始カッと見開いた畑中少佐の目にはもはや冷静さは残されていません。彼だけでなく、クーデターに同調する将校ひとりひとりに狂気が宿っていきます。特に黒沢年男の演技はやりすぎじゃないのかと思えるほど。

年長者たちが粛々と終戦工作を進め、若い世代に未来を託そうとしているのに、旧体制を維持して最後の一人になっても戦おうとしているのは若者たちという皮肉。現代の視点から見れば、陸軍将校たちの行動は愚かに思えますが、負け知らずの軍隊であるというプライドと「生きて虜囚の辱めを受けず」の教えを受けてきた彼らにとって、連合軍によって占領されるのは死ぬよりも耐え難い苦痛だったのでしょう。

「大日本帝国」の終焉と「日本国」の夜明け。岡本喜八が伝えたかったもの

群像劇である「日本のいちばん長い日」の最重要人物のひとりが、三船敏郎演じる阿南惟幾陸軍大臣です。

後半のクライマックスとなるのが、敗戦の責任を取って阿南が自宅で切腹するシーン。8月15日の早朝、部下2人が見守る中、阿南が自らの腹に短刀を突き立て、一文字にかっさばいていきます。岡本喜八監督お得意の血しぶき演出でこれがまた痛そうに見えるんですよ……。

息も絶え絶えの中、最後の力を振り絞って頸動脈を切り裂き、ついに阿南は絶命します。それと同時に、東の空から朝陽が昇ってくる。これは「大日本帝国」の終焉、そして平和憲法下における「日本国」の再出発を象徴していると言っていいでしょう。

切腹の直前、阿南は部下たちにこんな言葉を託しています。

「生き残った人々が、二度とこのような惨めな日をむかえないような日本に……なんとしてでもそのような日本に再建してもらいたい。」

自らも空襲を経験し、強い反戦思想をもっていた岡本喜八監督が、阿南惟幾という男を通じて、当時の日本人に伝えたかったメッセージ。公開から50年経った今、あらためて鑑賞することの意義は大きいと思います。この夏休みにぜひどうぞ。

日本のいちばん長い日 Blu-ray

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2015年にリメイクもされています。こちらは政府首脳の私生活の描写が多く、感情移入しやすくなっているほか、昭和天皇をきっちりと描いている、畑中少佐の狂気が抑えめになっているなど、オリジナル版よりバランスの取れた内容となっているので、より鑑賞しやすいと思います。

日本のいちばん長い日

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