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ニュージーランド発の映画ブログ

初心者にオススメしたい黒澤明監督の作品厳選5つ

日本が世界に誇る巨匠・黒澤明

映画に詳しくない人でも名前くらいは聞いたことがある人は多いでしょう。彼の作品が「スター・ウォーズ」をはじめとする数々のハリウッド映画に影響を与えたエピソードはあまりにも有名です。

彼がメガホンを取った30作品の中から、黒澤映画をまだ見たことがない人にオススメしたい5作品を選んでみました!

「椿三十郎」

椿三十郎 [Blu-ray]

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ある古びた社殿に集まっている若侍たち(加山雄三、田中邦衛ら)。彼らは藩家老の汚職を訴える意見書を大目付・菊井に提出し、今夜、菊井と会談するために集結していた。


そこに社殿の奥から突然ひとりの浪人・椿三十郎(三船敏郎)が現れる。浪人は「その大目付は敵側の黒幕に違いない」と指摘し、若侍たちは驚く。しかしほどなく菊井の手下・室戸(仲代達矢)とその一味によって社殿は包囲され、若侍たちは命からがらその場を脱出する。


こうして若侍たちから一目置かれた浪人は、汚職で私腹を肥やす藩の重臣たちとの対決に巻き込まれていく……


やっぱり一本目には、サクッと見られて「黒澤映画おもしれーっ!」って思ってもらえるものをオススメしたい。ということで「椿三十郎」を1位に持ってきました。「七人の侍」を推したい人もいるでしょうけど、あれはいきなり観るには長すぎですよ。

それに比べれば、こちらは上映時間がたったの1時間半ですからね。ヒマな時間にぱっぱと観られる短さなうえ、家老を追い詰めるために三十郎が考える数々の策略、その裏をかこうとする室戸との対決がテンポよく描かれていて気持ちがいい。

さらに、黒澤映画といえば練りに練られた構図と映像美が魅力のひとつ。本作は短い作品ながら、鑑賞後に「あのシーン好きだなー」って場面がひとつは見つかる映画だと思うんです。あまりに有名なラストの対決シーンだけでなく、家老達の運命を椿の花で表現した場面など、印象に残る画がとても多い。

ってことで、「もっとほかの作品も見たい!」と思ってもらうためにも「椿三十郎」オススメでございます。

「蜘蛛巣城」

蜘蛛巣城 [Blu-ray]

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蜘蛛巣城城主・都筑国春の臣下である鷲津武時(三船敏郎)と三木義明(千秋実)は、北の館でおきた謀反を鎮圧したのち、蜘蛛巣城に馬を走らせる中、「蜘蛛手の森」で迷ってしまう。そこで謎の老婆に出会い、彼女から「武時はいずれ北の館の主、いずれは蜘蛛巣城の主となろう。義明は一の砦の城主となり、その子供はいずれ蜘蛛巣城の城主となろう」と予言を受ける。真に受けないふたりであったが、実際に国春から、武時を北の館の主、義明を一の砦の城主とすることが告げられる。


武時は喜ぶが、妻・浅茅からは「その予言を国春が知ったら、こちらに謀反の疑いをかけられる。その前に謀反を起こすべき」とそそのかされ……。

「蜘蛛巣城」はね、怖い! それもモノクロ映画ならではの怖さ。僕が最初にちゃんと鑑賞したモノクロ映画がこの作品だったんですが、えっ白黒でこんな映像表現できるの!? すごくね!? って衝撃を受けたのをよーく覚えてます。

これ、いわばホラー時代劇なんですよね。自分の利益のために殺してしまった人間の亡霊と、呪いともいうべき抗えない運命に翻弄される武将のお話。ということで、おどろおどろしいモチーフがそこかしこに散りばめられているわけですが、それが白黒の対比で驚くほど鮮やかに描き出されていて、ショッキングなほどですよ。

宴の最中に亡霊が現れるシーンは、モノクロ映画ならではのすごみで息が詰まるほど。心の準備をしておかないと悲鳴が上がるかもしれませんよ、ほんと。

クライマックスで無数の矢が鷲津に襲いかかるシーンでは、本物の矢を射かけさせたので三船敏郎が死にかけたというエピソードが残っています。こんなん今じゃ絶対撮影できないでしょ!

つまり、モノクロ映画ならでは + 昔の何でもありな時代ならではのすごみが堪能できるのが、この作品ってわけです。

「七人の侍」

七人の侍

七人の侍

関が原の合戦から数年後。山間のとある農村では、行き場をなくした野武士の襲撃によって甚大な被害が発生していた。このままでは滅びるしかないと考えた村人たちは、侍を雇って野武士と対決することを決意する。


侍集めには苦労しながらも、戦の経験が豊富な勘兵衛(志村喬)とその腹心・七郎次(加東大介)、剣術の達人・久蔵(宮口精二)、軍学の知識に優れた五郎兵衛(稲葉義男)、人柄のよい平八(千秋実)、血気盛んな若者の勝四郎(木村功)、そして身分不詳な謎の男・菊千代(三船敏郎)の七人が集結する。


次の野武士の襲撃は麦の収穫の後だと考える侍は、百姓たちとともに戦の準備をはじめる。そしてついに、野武士との対決が始まる!


黒澤映画を代表する大傑作ですが、なにせ3時間半は長い。半日潰す覚悟じゃないと見れません。ってことで、短めの作品をいくつか見て「ああああもっと黒澤映画観たい!」と欲求をためにためた上で観るのが正解だと思います、笑

まぁ長い長いと言ってますけど、ぶっちゃけ内容があまりにおもしろいので時間はそんなに気になりません。傑作と呼ばれる長い映画ってのは、それだけ観客を引きつけ続ける力がある作品なんで、そのへんの映画よりおもしろいのは当たり前っちゃ当たり前ですね。

「七人の侍」の魅力はいろいろありますが、あえてひとつだけ挙げるなら、これはチャンバラ映画ではなく戦争映画だってところでしょうか。

普通の時代劇なら、戦闘シーンは当然刀と刀の斬り合いになるところですが、「七人の侍」では、鉄砲を装備して馬に乗った野武士たちを、バラバラにしてひとりひとり袋叩きにしていくという極めて現実的な戦闘スタイルが描かれてます。村の地図を広げながら、誰をどこに配置し、どう野武士をおびき寄せるか戦術を立てるシーンも出てきます。

当然、その中では村人や侍の中にも命を落とす者が出てくる。そのたびに村に墓標が増える。登場人物の中にスーパーマンはひとりもいない、リアルな戦争映画なんですね。

「七人の侍」が作られたのは昭和29年、終戦からわずか9年後のことです。第二次世界大戦で人々が経験したできごとが、どう映画の中に出てきているか考えながら観ても相当おもしろいと思いますよ。


「乱」

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戦国時代。一文字家を長年率いてきた武将・秀虎(仲代達矢)は、70歳になったのを機に、家督を3人の息子に譲ることを決意する。


ところが、三男の三郎(隆大介)は「この戦国の世に息子たちを信じて隠居とは狂気の沙汰」と反目。秀虎の怒りを買い、家臣もろとも追放されてしまう。


秀虎が安寧のときをむかえたと思ったのもつかの間、太郎(寺尾聰)と次郎(根津甚八)が秀虎に反逆の手を向け、秀虎はショックのあまり狂気に支配されてしまう……。

1985年に公開された、黒澤最後の時代劇

もともと黒澤監督は画家志望だったこともあり、カラー作品には独特の色彩感覚が存分に活かされています。まーその色彩感覚がアートな方向に振れすぎて観客が置いてきぼりになっちゃった作品もありますが(「どですかでん」とか)、アートとエンタメの均衡が最も取れてるのは「乱」でしょう。

まず、冒頭のキャスト紹介のバック映像からものすんごくきれい。夏の青空を背にもくもくと盛り上がる白雲、青々とした草の生い茂る丘の上に佇む一騎の騎馬武者。このカットを撮るために監督はどれだけ粘ったんだ……という執念がうかがい知れます。

そこからはもう、静止画で額に入れて鑑賞できるような映像の連続ですよ。本物の城を建てて燃やしてしまった落城シーン、切り捨てられた奥方の鮮血が壁にピシイッと飛び散る場面、ラストの夕日、などなどなどなど……。

滅びゆく一族の醜さと、それを描く映像の美しさの対比が印象に残る一本。美術館の企画展を鑑賞する気分でぜひ。

「悪い奴ほどよく眠る」

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政治汚職の責任を負わされ、父親を自殺に追い込まれた男・西(三船敏郎)。彼は父親の敵である公団副総裁・岩渕(森雅之)の秘書となり、ついにその娘・佳子(香川京子)と結婚した。


岩渕のふところに潜りこんだ西はその立場を利用して、かつて父を殺した相手ひとりひとりに復讐を遂げていく。ついに汚職事件の全貌をマスコミに公開する手前までこぎつけるが……。


時代劇ばっかりオススメしてきたんで、現代劇も一本入れておきましょう。時代劇とは打って変わって、メガネにポマード頭の三船敏郎が大活躍する復讐譚。

三船演じる西が、あの手この手で父親を殺した連中を追い詰めていくんですが、これが実に痛快。父親のように自殺に追い込まれそうになった男を仲間に引き入れ、亡霊のように登場させることで相手のサニティを削っていき精神崩壊に追い込むだとか、拉致して地下壕に閉じ込め、何日も食べ物を与えずに証拠書類のありかを聞き出すだとか。手口は陰湿なんだけど、西の相棒・板倉(加藤武)の明るさもあってか、笑いながら「いいぞもっとやれ!」と見れちゃいます。

が、が、が、そんな観客の気持ちをどんがらがっしゃーんと裏切る衝撃のラストが待ち受けているのがこの作品。観てる人間の心をがりがりと削ってきます。エンタメの皮をかぶりながら、その実は現代社会の病理をするどく描き、ただの娯楽作品で終わらせない一本。

時代劇だけでなく、現代劇もすこぶるおもしろいんで、これをきっかけにしてほかの作品にも手を出してみてほしいですね。観るなら白黒時代のがオススメかな。